遺産分割協議の基礎知識
- 1. 遺産分割協議の基礎知識
- 2. 遺産分割協議の基礎知識
- 3. 対象となる相続財産(不動産・預貯金・有価証券・自動車・地金など)
- 3.1. プラス財産
- 3.2. 借金
- 3.3. 生命保険
- 4. 全員合意が絶対条件(不在者財産管理人・失踪宣告、無効となる場合)
- 4.1. 行方不明の共同相続人がいる場合
- 4.2. 相続人全員が参加していても無効・取消しとなる場合
- 4.2.1. 認知症の方や未成年者がいる場合の事前確認
- 5. 遺産分割協議の3ステップ(相続人調査・財産調査・協議)
- 5.1. 相続人調査
- 5.2. 相続財産調査
- 5.2.1. 人と物を確定させたら遺産分割協議
- 6. 遺留分が気になる方へ
- 6.1. 単騎消滅時効に注意
- 7. 不動産の分け方
- 7.1. 換価分割・代償分割・現物分割・共有分割
- 7.2. 評価方法の違い(公示地価・基準地価・路線価・固定資産評価額・実勢価格)
- 8. 寄与分・特別受益・特別寄与料
- 8.1. 寄与分とは何か(療養看護型・家業従事型・財産管理型)
- 8.2. 特別寄与料とは何か(相続人以外の親族が請求できる制度)
- 8.3. 特別受益とは何か(生前贈与・学費・住宅資金援助の扱い)
- 8.4. 寄与分・特別受益を主張する際の注意点
- 9. 遺産分割協議書の作り方と注意点
- 9.1. 財産の特定記載・署名実印・印鑑証明書
- 9.2. 代償金・生命保険金の扱い・後日判明財産の条項
- 9.3. 【重要】印鑑証明書を安易に送付しない
- 9.4. 預貯金解約には協議書が必須
- 10. 実務でよくあるトラブル実例
- 10.1. 応答しない相続人(不在者との違い、付郵便送達)
- 10.2. 相続人間の対立(評価額の違い・介護負担の評価・不当な署名の強要・相続権のない配偶者の介入)
- 10.2.1. 不動産などの評価額をめぐる対立
- 10.2.2. 被相続人の介護や看病を担っていた相続人と、そうでない相続人との間で生じる対立
- 10.2.3. 特定の相続人が押印などを強要するケース
- 10.2.4. 相続人でない親族が協議に関与してくるケース
- 11. 話し合いが進まないとき―遺産分割調停の手続き
- 11.1. 調停とは何か・話し合いとの違い
- 11.2. 調停の申立先・必要書類・費用
- 11.3. 調停の流れ(申立てから終了まで)
- 11.4. 調停にかかる期間の目安
- 11.5. 調停委員への対応と準備しておくべき資料
- 11.6. 弁護士に依頼するメリットとタイミング
- 12. 調停でも解決しない場合―遺産分割審判へ
- 13. 弁護士費用について——透明性のあるご説明と、後悔のないご判断のために
- 14. 広島の相続のご相談は、初回無料・時間制限なし
広島で相続案件に強い弁護士法人あさかぜ法律事務所が、遺産分割協議の基本から実務上の注意点までを解説します。
遺産分割協議は、相続人全員の合意によって遺産の分け方を決める重要な手続きですが、進め方を誤ると協議が無効になったり、後々のトラブルに発展したりする恐れがあります。本記事では、遺産分割協議の基本的な流れから、不動産の分割方法、遺留分や寄与分といった注意点、協議書の正しい作成方法、さらに話し合いがまとまらない場合の調停・審判手続きまで、実務に即して分かりやすく解説します。読み終える頃には、円滑に遺産分割を進めるために必要な知識と対処法が身につきます。


遺産分割協議の基礎知識
相続が発生すると、被相続人が遺した財産を相続人全員でどのように分けるかを決める必要があります。
この話し合いのことを「遺産分割協議」と呼びます。遺言書が存在しない場合や、遺言書に記載のない財産がある場合には、法定相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するかを具体的に決定しなければなりません。
遺産分割協議は法律で定められた厳格な手続きというよりも、相続人同士の合意形成のプロセスであるため、進め方を誤るとトラブルに発展しやすい点に注意が必要です。ここでは、遺産分割協議を始める前に知っておくべき基礎的な知識について解説します。
対象となる相続財産(不動産・預貯金・有価証券・自動車・地金など)
プラス財産
遺産分割協議の対象となるのは、被相続人が所有していたプラスの財産全般です。代表的なものとしては、土地や建物などの不動産、銀行や信用金庫に預けていた預貯金、株式や投資信託などの有価証券、自動車、貴金属や骨董品といった動産が挙げられます。これらの財産は名義変更や解約手続きを行う際に、遺産分割協議書の提出を求められることが一般的です。
借金
一方で、借金やローンなどのマイナスの財産(債務)は、原則として法定相続分に応じて相続人に当然に承継されるため、遺産分割協議の対象には含まれません。
生命保険
生命保険金は受取人が指定されている場合、受取人固有の財産とみなされ、原則として遺産分割協議の対象外となります。
ただし、受取人が「被相続人」となっている場合などは相続財産に含まれるケースもあるため、契約内容の確認が必要です。財産調査の段階で、対象となる財産とならない財産を正確に区分しておくことが、後のトラブルを防ぐポイントになります。
全員合意が絶対条件(不在者財産管理人・失踪宣告、無効となる場合)
遺産分割協議が有効に成立するためには、法定相続人全員の合意が絶対条件となります。
行方不明の共同相続人がいる場合
一人でも相続人が欠けた状態で行われた協議は無効です。相続人の一部を除外して進めた協議書に署名押印を求めても、法的な効力は認められません。そのため、協議を始める前には戸籍謄本などを収集し、相続人の範囲を正確に確定させる作業が不可欠です。まずは所在調査を尽くし、それでも判明しない場合は家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるか、要件を満たせば失踪宣告を申し立てて死亡とみなしてもらう、という対応が必要になります。


失踪宣告には期間の要件があり、生死が7年間明らかでない場合の普通失踪と、地震や事故などの危難が去った後1年間生死が明らかでない場合の危難失踪とで、必要な期間が異なります。要件を満たさない段階では、まず不在者財産管理人の選任を検討することになります。
相続人全員が参加していても無効・取消しとなる場合
相続人全員が協議に参加していたとしても、その合意そのものに問題があれば、協議は無効または取消しの対象となります。代表的なのは次のようなケースです。
未成年者や成年被後見人が、法定代理人の同意や後見人の関与なく合意した場合 → 無効または取消しの対象
認知症などにより判断能力(意思能力)を欠く状態で合意した場合 → 無効
詐欺や強迫によって合意させられた場合 → 取消しの対象
認知症の方や未成年者がいる場合の事前確認
相続人の中に認知症の方や未成年者がいる場合は、上記のとおり協議自体の効力が問題となる可能性があるため、協議を始める前の確認が重要です。
判断能力が不十分な方については、成年後見人の選任を検討します。未成年者については、親権者が代理して協議に参加するのが原則ですが、親権者自身も相続人であるなど利益相反の関係にあるときは、親権者がそのまま代理人として協議に加わることはできません。この場合は家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立て、選任された特別代理人が本人に代わって協議に参加する必要があります。
成年後見人・特別代理人を選任せずに進めた協議は、無効または取消しの対象となるおそれがあるため、相続人の中に該当する方がいないかを事前に確認し、必要な手続きを踏んだうえで協議を進めることが大切です。

遺産分割協議の3ステップ(相続人調査・財産調査・協議)
相続人調査
遺産分割協議は、大きく分けて3つのステップで進めていきます。第一のステップは「相続人調査」です。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて取得し、法定相続人が誰であるかを漏れなく確定させます。異母兄弟や認知した子どもなど、把握していなかった相続人が判明することもあるため、慎重な調査が求められます。
相続財産調査
第二のステップは「財産調査」です。不動産の登記簿謄本や固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書、証券会社からの取引残高報告書などを収集し、相続財産の全体像を明らかにします。財産調査が不十分なまま協議を進めると、後日新たな財産が見つかった際に再協議が必要となる場合があります。
人と物を確定させたら遺産分割協議
第三のステップが「協議」です。確定した相続人全員で、確定した財産をどのように分割するかを話し合います。話し合いの結果、全員が合意に至った内容を書面化したものが遺産分割協議書となります。この3つのステップを丁寧に踏むことが、後々のトラブルを避け、円滑な相続手続きを実現するための基本となります。
遺留分が気になる方へ
遺産分割協議を進める中で、特定の相続人だけが多くの財産を取得する内容になっている場合、他の相続人から「遺留分」について指摘を受けることがあります。遺留分とは、一定の範囲の相続人に法律上保障された最低限の相続分のことです。遺言や生前の贈与、遺産分割協議の内容によってこの遺留分が侵害されている場合、侵害された相続人は遺留分侵害額請求という手続きを行うことができます。
遺留分が認められるのは、配偶者、子(子が死亡している場合は孫などの代襲相続人)、直系尊属(父母や祖父母)に限られます。
兄弟姉妹には遺留分は認められていません。遺留分の割合は、直系尊属のみが相続人となる場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は相続財産の2分の1とされており、これに各相続人の法定相続分を乗じた割合が、個々の遺留分の割合となります。
遺産分割協議は、遺留分を侵害する内容であっても、相続人全員が合意すればその内容で成立させることが可能です。遺留分はあくまで請求できる権利であり、協議の内容そのものを無効にする制度ではないためです。しかし、後になって一部の相続人が納得できずに遺留分侵害額請求を行うと、協議が成立した後であっても、金銭的な請求をめぐる新たなトラブルに発展することがあります。特に、生前に特定の相続人へ多額の贈与が行われていた場合や、遺言によって特定の相続人に財産が集中している場合には、遺留分の問題が生じやすくなります。
単騎消滅時効に注意
遺留分侵害額請求には期間の制限があります。相続の開始及び遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年、または相続開始の時から10年を経過すると請求できなくなるため、心当たりがある場合は早めに検討することが望ましいといえます。遺産分割協議の段階で遺留分に配慮した内容にしておくことは、後々の紛争を避けるためにも重要な視点となります。
不動産の分け方
相続財産の中でも不動産は分割が難しい財産の代表例です。現金のように単純に分けることができないため、遺産分割協議では不動産をどのような方法で分けるかが大きな争点になりやすい傾向があります。ここでは不動産を分割する4つの方法と、その際に必要となる評価方法の違いについて解説します。
換価分割・代償分割・現物分割・共有分割
不動産の分割方法には、大きく分けて「換価分割」「代償分割」「現物分割」「共有分割」の4種類があります。
換価分割は、不動産を売却して得た金銭を相続人間で分配する方法です。不動産をそのまま保有する必要がなく、公平に分けやすい点がメリットですが、売却までに時間がかかることや、売却価格が相場より下がる可能性がある点には注意が必要です。
代償分割は、特定の相続人が不動産を取得し、その代わりに他の相続人へ代償金を支払う方法です。自宅を継続して使用したい相続人がいる場合や、事業用不動産を維持したい場合に選ばれることが多い方法です。ただし、不動産を取得する相続人に代償金を支払うための資金力が必要となります。
現物分割は、複数の不動産がある場合に、それぞれの不動産をそのまま各相続人に割り当てる方法です。一つの土地を複数に分筆して分ける場合もこれに含まれます。分筆によって土地の形状や利便性が損なわれ、資産価値が下がる可能性がある点は留意すべきポイントです。
共有分割は、不動産を複数の相続人の共有名義とする方法です。分割方法を決めきれない場合の折衷案として選ばれることがありますが、将来的に共有者の一人が売却や賃貸を希望した際に他の共有者の同意が必要となるため、新たなトラブルの火種になりやすい方法でもあります。将来の管理や処分を考えると、できる限り共有状態は避け、他の分割方法を検討することが望ましいとされています。
評価方法の違い(公示地価・基準地価・路線価・固定資産評価額・実勢価格)
不動産をどの分割方法で分けるとしても、その価値をどう評価するかによって相続人間の公平性が大きく変わります。不動産の評価方法には複数の種類があり、それぞれ算出の目的や基準が異なります。
公示地価は、国土交通省が毎年1月1日時点の標準地について公表する価格で、一般の土地取引の指標として用いられます。基準地価は、都道府県が毎年7月1日時点で調査し公表する価格で、公示地価を補完する役割を持ちます。
路線価は、国税庁が毎年公表する道路に面する土地の価格で、相続税や贈与税の算定に用いられます。一般的に公示地価の8割程度を目安に設定されているといわれています。固定資産評価額は、各市区町村が固定資産税を算定するために設定する価格で、公示地価の7割程度が目安とされ、3年ごとに見直されます。
実勢価格は、実際に不動産市場で取引される価格であり、需要と供給のバランスによって変動します。遺産分割協議においては、この実勢価格に近い金額で評価することが望ましいとされていますが、相続人ごとに参照する評価方法が異なると、評価額に対する認識のずれが生じやすくなります。
不動産の評価方法について相続人間で意見が分かれる場合には、不動産鑑定士による鑑定評価を取得したり、複数の不動産会社から査定を取り、その平均値を協議のたたき台とする方法も有効です。評価方法をあらかじめ統一しておくことで、後々の対立を避けやすくなります。
(ご参考)当事務所府中大國魂神社前事務所コンテンツ
不動産の相続でお悩みの方へ:知っておきたい不動産の評価のしかたと分割方法
寄与分・特別受益・特別寄与料
遺産分割協議では、法定相続分どおりに財産を分けると不公平になるケースがあります。特定の相続人が被相続人の財産形成に貢献していたり、逆に生前に多額の援助を受けていたりする場合には、その事情を考慮して取り分を調整する必要があります。ここでは「寄与分」「特別受益」「特別寄与料」という3つの制度について解説します。
寄与分とは何か(療養看護型・家業従事型・財産管理型)
寄与分とは、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした相続人に対して、法定相続分に加えて認められる取り分のことです。民法上、単なる扶養義務の範囲を超えた「特別の寄与」があった場合に認められます。
寄与分が認められる典型的なパターンには、被相続人の療養看護を長期間にわたって行った「療養看護型」、被相続人が営む家業を無償またはそれに近い形で手伝っていた「家業従事型」、被相続人の不動産管理や金銭管理を担っていた「財産管理型」などがあります。いずれの場合も、単に同居していた、あるいは通常の親族間の助け合いの範囲にとどまる行為では寄与分は認められにくく、財産の維持・増加への具体的な貢献が客観的に示せることが重要です。
寄与分の金額は相続人全員の協議によって決めるのが原則ですが、協議が調わない場合は家庭裁判所の調停や審判で判断されます。その際には、介護日数や看護の内容、家業への従事期間、実際に免れた出費の金額などを裏付ける資料が必要になります。
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特別寄与料とは何か(相続人以外の親族が請求できる制度)
特別寄与料は、相続人ではない親族が被相続人の療養看護などに貢献した場合に、相続人に対して金銭の支払いを請求できる制度です。たとえば、長男の配偶者が長期間にわたって被相続人の介護を担っていたようなケースが代表例です。
この制度が創設される以前は、相続人でない親族がどれだけ献身的に介護を行っても、法律上の取り分を得ることができませんでした。特別寄与料の制度により、相続人ではない親族であっても、無償で療養看護や労務の提供を行い、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした場合には、相続人に対して金銭の支払いを求めることができるようになりました。
特別寄与料を請求できるのは被相続人の親族に限られ、金額は相続人との協議で定めるのが原則です。協議が調わない場合は家庭裁判所に申し立てることができますが、相続の開始および相続人を知ったときから6か月以内、または相続開始から1年以内という期間制限がある点に注意が必要です。
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特別受益とは何か(生前贈与・学費・住宅資金援助の扱い)
特別受益とは、特定の相続人が被相続人から生前に受けた贈与や、遺贈によって得た利益のことです。他の相続人との公平を図るため、特別受益がある場合はその金額を相続財産に持ち戻して計算し、各相続人の取り分を調整します。
特別受益に該当しやすいものとしては、住宅購入資金の援助、事業を始める際の開業資金の提供、多額の学費(特に大学院や留学費用など通常の教育の範囲を超えるもの)、婚姻や養子縁組の際の持参金などが挙げられます。一方で、通常の範囲内の生活費の援助や、扶養義務の履行とみなされる程度の支援については、特別受益に該当しないと判断されることもあります。
持ち戻し計算では、相続開始時の財産に特別受益の額を加えた「みなし相続財産」を基準に、各相続人の具体的な相続分を算出します。特別受益を受けた相続人は、その持ち戻し後の相続分から既に受けた贈与額を差し引いた金額を受け取ることになります。なお、被相続人が持ち戻しを免除する意思表示をしていた場合は、その意思が尊重されることもあります。
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具体的相続分の主張には期間制限がある(相続開始から10年)
寄与分や特別受益といった事情を反映させた遺産分割の方法を「具体的相続分」による分割と呼びますが、この主張には期間制限が設けられている点に注意が必要です。
令和3年(2021年)の民法改正により新設された民法904条の3では、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産分割については、寄与分(民法904条の2)および特別受益(民法903条・904条)の規定を適用しないと定められました。この改正は令和5年(2023年)4月1日に施行されています。
つまり、相続開始から10年が経過した後に遺産分割を行う場合、原則として寄与分や特別受益を考慮することができず、法定相続分(遺言がある場合は指定相続分)に基づいて分割するしかなくなります。相続人間の対立や連絡不通などを理由に遺産分割を長年先延ばしにしてきたケースでは、この10年という期間の経過によって寄与分・特別受益を主張する機会を失ってしまうおそれがあるため、早めの対応が重要です。
なお、次のいずれかに該当する場合は、10年経過後であっても寄与分・特別受益の主張が認められます。
- 相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき
- 相続開始の時から10年の期間の満了前6か月以内に、遺産分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6か月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき
- 相続人全員が、具体的相続分による遺産分割に同意したとき
また、この改正規定は施行日(令和5年4月1日)より前に発生した相続にも適用されますが、混乱を避けるため、施行日から5年間(令和10年〔2028年〕3月31日まで)の猶予期間が設けられています。したがって、施行日の5年以上前に相続が開始していたケースであっても、令和10年3月31日までは寄与分・特別受益を主張することが可能です。
寄与分や特別受益の主張を検討している場合は、こうした期間制限を意識し、相続人間の協議や家庭裁判所への申立てを早めに進めることが望ましいといえます。
寄与分・特別受益を主張する際の注意点
寄与分や特別受益は、主張する側がその事実を証明する必要があります。介護記録、通院の付き添いを示す資料、送金の記録、贈与契約書、預金通帳の履歴など、客観的な証拠をできるだけ多く準備しておくことが重要です。
また、これらの主張は他の相続人との感情的な対立を招きやすいテーマでもあります。協議の場で一方的に主張するのではなく、根拠となる資料を示しながら冷静に話し合うこと、必要であれば専門家に相談しながら進めることが、円滑な遺産分割協議につながります。
遺産分割協議書の作り方と注意点
遺産分割協議がまとまったら、その内容を書面化した「遺産分割協議書」を作成します。
遺産分割協議書は、不動産の相続登記や預貯金の解約・払い戻し、有価証券の名義変更など、相続手続きのあらゆる場面で必要となる重要な書類です。口頭での合意だけでは後日「言った」「言わない」のトラブルに発展しかねないため、必ず書面として残しておくことが大切です。ここでは、遺産分割協議書の具体的な作成方法と、実務上とくに注意すべきポイントについて解説します。
財産の特定記載・署名実印・印鑑証明書
遺産分割協議書を作成する際にもっとも重要なのは、対象となる財産を誰が見ても特定できるように正確に記載することです。不動産であれば登記事項証明書(登記簿謄本)に記載されている所在・地番・家屋番号・地目・地積・床面積などを正確に転記します。預貯金であれば金融機関名・支店名・口座種別・口座番号を、有価証券であれば証券会社名・銘柄・数量を明記し、自動車であれば車名・登録番号・車台番号を記載します。財産の記載が曖昧だと、後日の名義変更や解約手続きの際に法務局や金融機関から補正を求められることがあるため注意が必要です。
また、遺産分割協議書には相続人全員が署名し、実印を押印する必要があります。認印では法務局や金融機関で受け付けてもらえないケースがほとんどであるため、必ず実印を使用してください。あわせて、各相続人の印鑑証明書を添付します。印鑑証明書は発行から3か月以内など有効期限を求められることがあるため、手続きを行うタイミングに合わせて取得するのが望ましいでしょう。
代償金・生命保険金の扱い・後日判明財産の条項
不動産などを一人の相続人が取得する代わりに、他の相続人に代償金を支払う「代償分割」を行う場合は、その旨と支払額、支払期限、支払方法を協議書に明記しておく必要があります。金額や期限が不明確だと、後日の未払いトラブルにつながるおそれがあります。
生命保険金は、原則として受取人固有の財産とされ、遺産分割の対象には含まれません。ただし、保険金の額が遺産総額に比べて著しく高額である場合など、特別受益に準じて扱われる可能性があるため、事情によっては協議書内でその取り扱いについて言及しておくと後のトラブル防止につながります。
さらに、協議書を作成した後に新たな財産が判明することも少なくありません。そのような事態に備え、「本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は、相続人間で別途協議する」といった条項をあらかじめ盛り込んでおくことで、再度すべての手続きをやり直す手間を防ぐことができます。
【重要】印鑑証明書を安易に送付しない
印鑑証明書は実印とセットで使用されることで強い証明力を持つ書類です。そのため、内容の確定していない遺産分割協議書に押印するために印鑑証明書を先に送付してしまうと、意図しない内容の書類に流用されるリスクがあります。特に相続人の中に疎遠な親族や連絡の取りにくい相手がいる場合には、協議書の最終的な内容を十分に確認したうえで、押印と印鑑証明書の提出を同時に、かつ内容を保管した状態で行うことが望ましいといえます。郵送でやり取りする場合は、控えを必ず手元に残し、内容に相違がないか複数回確認するようにしましょう。
(ご参考)当事務所府中大國魂神社前事務所コンテンツ
預貯金解約には協議書が必須
被相続人名義の預貯金口座は、金融機関が死亡の事実を把握した時点で凍結され、相続人であっても単独で引き出すことができなくなります。
凍結された口座を解約し、払い戻しを受けるためには、原則として遺産分割協議書に加え、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書などを金融機関に提出する必要があります。
金融機関によって必要書類や手続きの流れに違いがあるため、事前に窓口へ確認しておくとスムーズです。なお、当面の生活費や葬儀費用に充てるために一定額までの払い戻しを受けられる「預貯金の仮払い制度」もありますが、あくまで一時的な措置であり、最終的な解約手続きには遺産分割協議書が必要となる点に留意してください。
実務でよくあるトラブル実例
遺産分割協議は、法律の知識だけでなく、相続人同士の感情や利害が複雑に絡み合う場面です。
ここでは、実務上とくに多く発生するトラブルの実例を取り上げ、その原因と対処法を具体的に解説します。事前にトラブルのパターンを知っておくことで、いざ自分が当事者になったときに冷静に対応できるようになります。
応答しない相続人(不在者との違い、付郵便送達)
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要となるため、連絡がつかない相続人や、話し合いに応じない相続人がいると協議が完全にストップしてしまいます。単に「返事をしない」「無視している」という相続人と、そもそも住所や生死が不明な「不在者」とでは、法律上の対応がまったく異なる点に注意が必要です。
連絡先は判明しているものの、意図的に協議を無視したり返答を先延ばしにしたりする相続人に対しては、内容証明郵便で協議への参加を促す方法が一般的です。それでも応答がない場合、家庭裁判所の手続きにおいて「付郵便送達」という方法が用いられることがあります。これは、相手方が受け取りを拒否したり不在であったりしても、一定の手続きを経ることで送達があったものとみなす制度です。
一方、相続人の住所や生死自体が分からない「不在者」のケースでは、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てる必要があります。
不在者財産管理人が選任されれば、その管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加することができます。行方不明の状態を放置したまま協議を進めても、その協議は無効となってしまうため、早期に家庭裁判所へ相談することが重要です。
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相続人間の対立(評価額の違い・介護負担の評価・不当な署名の強要・相続権のない配偶者の介入)
相続人が複数いる場合、それぞれの立場や思惑の違いから対立が生じることは珍しくありません。
ここでは代表的な4つの対立パターンを紹介します。
不動産などの評価額をめぐる対立
相続財産に不動産が含まれる場合、公示地価や路線価、固定資産評価額、実勢価格など、どの基準を採用するかによって評価額が大きく変わることがあります。取得を希望する相続人は評価額を低く主張し、代償金を受け取る側の相続人は評価額を高く主張する傾向があり、これが折り合わずに協議が長期化するケースが多く見られます。
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不動産の相続でお悩みの方へ:知っておきたい不動産の評価のしかたと分割方法
被相続人の介護や看病を担っていた相続人と、そうでない相続人との間で生じる対立
長年にわたり献身的に介護を行ってきた相続人は、その貢献を「寄与分」として遺産分割に反映させるよう主張しますが、他の相続人がこれを正当に評価しないことで感情的な対立に発展することがあります。介護日誌や通院の付き添い記録、実際に支出した費用の領収書などを保管しておくことが、後の話し合いを円滑に進める助けとなります。
(ご参考)当事務所府中大國魂神社前事務所コンテンツ
特定の相続人が押印などを強要するケース
「早く判を押してほしい」「相続放棄してくれないと困る」——他の相続人から一方的に迫られ、内容をよく理解しないまま署名押印を求められて困っている方もいらっしゃるかもしれません。
このような状況で作成された協議書であっても、あなたが内容を十分に理解し、納得したうえで署名しない限り、応じる義務はありません。
財産の内容や分割方法の説明が不十分なまま署名を求められた場合や、「今すぐ決めないと不利益になる」などと不安をあおられて合意させられた場合、その協議は後になって無効を主張したり、詐欺・強迫を理由に取消しを求めたりできる可能性があります。
大切なのは、署名押印の前に立ち止まることです。
- 財産目録(不動産・預貯金・有価証券など)の開示を求める
- 分割方法について自分なりに納得できるまで説明を受ける
- 少しでも違和感があれば、その場で署名せず持ち帰る
一度署名押印してしまうと、後から覆すには無効・取消しを主張するための立証が必要になり、相応の労力と時間がかかります。迷った時点、圧力を感じた時点で、署名の前に弁護士へご相談ください。
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相続人でない親族が協議に関与してくるケース
たとえば長男の配偶者が、法律上の相続権を持たないにもかかわらず、遺産分割の内容に強く口を出し、他の相続人との関係が悪化してしまう事例は、実務上決して少なくありません。
このようなケースが厄介なのは、弁護士が代理人として入った後も、その配偶者への対応が二重に難しいまま残ってしまう点にあります。
たとえば二男の代理人として協議に入った場合、長男の配偶者は共同相続人ではないため、代理人である弁護士がその配偶者に直接話をすることはできません。相続権を持つのはあくまで法定相続人本人であり、当事者でない第三者と直接交渉する立場にないためです。
さらに、長男自身に代理人弁護士が就いている場合であっても、その弁護士が話をすることができるのは依頼者である長男に対してであり、長男の配偶者に対して直接話をすることはできません。配偶者は長男の代理人弁護士にとっても依頼者ではないからです。
つまり、実質的に強い発言力を持っているのが配偶者であったとしても、
- 二男側の代理人は配偶者と直接話せない(共同相続人ではないため)
- 長男側の代理人も配偶者と直接話せない(依頼者ではないため)
という形で、配偶者は誰の代理人からも直接アプローチできない立場に置かれます。その結果、配偶者の意向は長男を通じてしか伝わらず、また長男を通じて伝えた内容が配偶者の意向でどう変化しているのかも外からは見えにくくなり、話し合いがかえって混乱し、長期化しやすくなります。
こうした事態を避けるためには、まず協議の当事者はあくまで法定相続人本人であることを、早い段階で関係者全員が共有しておくことが重要です。配偶者など相続権を持たない親族の意見を協議の場に反映させたいのであれば、相続人本人がその意見を踏まえたうえで、自らの意思として協議に臨む、という整理を徹底する必要があります。当事者を明確にしたうえで、冷静に話し合いを進める姿勢が求められます。
話し合いが進まないとき―遺産分割調停の手続き
相続人同士で何度も話し合いを重ねても意見がまとまらない場合や、そもそも相手が話し合いのテーブルにつこうとしない場合には、家庭裁判所を利用した「遺産分割調停」という手続きに進むことになります。
調停は当事者同士の感情的な対立を第三者が間に入ることで整理し、法的な観点から解決の道筋を見つけるための制度です。ここでは調停の申立て方法から進行の流れ、必要書類、費用、そして調停で有利に進めるためのポイントまで詳しく解説します。
調停とは何か・話し合いとの違い
遺産分割調停とは、家庭裁判所において調停委員が当事者双方の意見を聞きながら、合意形成を目指す手続きです。
当事者同士の私的な話し合いとは異なり、調停委員という中立的な第三者が間に入ることで、感情的な対立を和らげ、冷静な話し合いを進めやすくなるという特徴があります。また、調停委員は法律の専門家である場合が多く、法定相続分や寄与分、特別受益といった専門的な論点についても整理しながら進行してくれます。話し合いがこじれて直接顔を合わせることが困難な相続人同士でも、別々の待合室で待機し、調停委員が交互に話を聞く形式が取られるため、対面せずに手続きを進めることも可能です。
調停の申立先・必要書類・費用
遺産分割調停の申立ては、相手方となる相続人のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意で定めた家庭裁判所に対して行います。
申立てに必要な書類としては、申立書のほか、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本一式、相続人全員の戸籍謄本、住民票、遺産の内容が分かる資料(不動産登記事項証明書、預貯金の残高証明書、有価証券の評価資料など)が必要です。申立てにかかる費用は、被相続人1人につき収入印紙1200円分と、連絡用の郵便切手代が必要となります。書類の収集には時間がかかることが多いため、早めに準備を始めることが望ましいです。
調停の流れ(申立てから終了まで)
調停は申立てから終了まで、おおむね次のような流れで進みます。
まず家庭裁判所に申立書と必要書類を提出すると、裁判所から相手方に対して調停期日の呼び出し状が送付されます。第1回期日では、調停委員が双方から個別に事情を聞き取り、争点を整理します。その後、月に1回程度のペースで期日が開かれ、財産の範囲や評価額、分割方法について徐々に合意点を探っていきます。合意に至った場合は調停調書が作成され、これが確定判決と同様の効力を持つため、後日の紛争蒸し返しを防ぐことができます。合意に至らない場合は調停不成立となり、自動的に審判手続きへと移行します。
調停にかかる期間の目安
遺産分割調停にかかる期間は、争点の複雑さや相続人の人数、感情的対立の深さによって大きく異なりますが、一般的には半年から1年程度かかることが多いとされています。
不動産の評価方法で意見が対立している場合や、寄与分・特別受益の主張が絡む場合には、鑑定手続きが必要になることもあり、さらに長期化する傾向があります。一方で、争点が比較的単純で相続人全員が協力的な場合には、数か月程度で調停が成立するケースもあります。長期化を避けるためには、事前に財産調査を十分に行い、主張の根拠となる資料を整えておくことが重要です。
調停委員への対応と準備しておくべき資料
調停をスムーズに進めるためには、調停委員に対して自分の主張を分かりやすく伝えることが重要です。
感情的な訴えだけではなく、客観的な資料に基づいた説明を心がけることで、調停委員の理解を得やすくなります。準備しておくとよい資料としては、不動産の固定資産税評価証明書や査定書、預貯金通帳のコピー、生前贈与や介護の実態を示すメモや領収書、医療記録などが挙げられます。また、自分の希望する分割方法とその理由を整理したメモを用意しておくと、期日当日に落ち着いて説明することができます。調停委員はあくまで中立の立場であるため、一方的な主張だけでなく、相手方の事情にも配慮した柔軟な姿勢を示すことが、円満な解決への近道となります。
弁護士に依頼するメリットとタイミング
遺産分割調停は本人だけで進めることも可能ですが、争点が複雑な場合や相手方が弁護士を立てている場合には、早い段階で弁護士に依頼することを検討すべきです。
弁護士に依頼することで、法的な主張を的確に組み立ててもらえるだけでなく、調停期日に代理人として出席してもらうことで、精神的な負担を軽減できるというメリットがあります。特に、不動産の評価額をめぐる対立や、寄与分・特別受益の主張が絡むケースでは、専門的な知識が解決の鍵を握ることが多いため、調停の申立て前、あるいは第1回期日を迎える前の早い段階で相談しておくことが望ましいでしょう。
調停でも解決しない場合―遺産分割審判へ
遺産分割調停を重ねても合意に至らない場合、調停は不成立となり、事件は自動的に遺産分割審判へと移行します。ただし、実際には調停の中で何らかの合意に至るケースが大半であり、審判まで進むことはそれほど多くありません。
審判は、話し合いによる調停とは異なり、裁判官が双方の主張・証拠をもとに分割方法を決定する手続きです。調停での資料や主張がそのまま引き継がれ、必要に応じて追加の主張・証拠提出や、不動産については鑑定が行われることもあります。
審判では、法定相続分・特別受益・寄与分・遺産の評価額などを踏まえ、現物分割・代償分割・換価分割・共有分割のいずれか(またはその組み合わせ)による分割方法が示されます。相続人全員の合意を前提としないため、一部の相続人が納得できなくても法的拘束力を持ち、審判書は協議書に代わる書類として登記や預貯金の払戻しに使用できます。
審判に不服がある場合は、審判書受領から2週間以内に高等裁判所へ即時抗告を申し立てることができます。この期間内に抗告がなければ審判は確定します。
審判は法的強制力を持つ反面、当事者の希望に沿わない結果(換価分割・代償分割など)になることもあります。感情的な対立が主な原因で協議が進まない場合には、審判に進む前に弁護士を交えた再交渉の余地を検討することも一つの選択肢です。
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