大きな病気をされたとき、ご高齢のご家族のことを考えたとき、あるいはお世話になった方に財産を残したいと思われたとき。遺言書を意識されるきっかけはさまざまです。
自筆の遺言書は、費用をかけずご自身だけで作成できます。一方で、書き方や保管方法を誤ると、一部が効力を持たなかったり、かえってご親族の争いの種になることがあります。実際に私たちが扱う相続の紛争には、遺言書があったからこそ起きたものも少なくありません。
ここでは、遺言書についてよくいただくご質問を、一般的な形でまとめました。
Q1 自筆の遺言書を、封をしたまま家族に預けておいてもよいですか
預けること自体は可能です。ただし、おすすめはできません。理由は2つあります。
ひとつは、紛失・改ざん・隠匿の疑いを招きやすいことです。亡くなった後に「本当に本人が書いたのか」「内容が差し替えられたのではないか」という争いへ発展する例があります。預かった方が、他のご親族から疑いの目を向けられることにもなりかねません。
もうひとつは、家庭裁判所の検認手続が必要になることです。検認には相続人全員の戸籍謄本を集める必要があり、完了まで1か月から数か月を要します。この手続を経ずに執行したり、家庭裁判所以外の場所で開封したりすると、5万円以下の過料の対象となります。法務局の遺言書保管制度を利用されることも検討してみてください。
ご自身で作成される場合は、次のQ2の制度をご検討ください。
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Q2 法務局の遺言書保管制度とはどのようなものですか
自筆で書いた遺言書を法務局に預けられる制度です。手数料は1件につき3,900円で、次の利点があります。
- 家庭裁判所の検認手続が不要になる
- 原本が法務局で保管されるため、紛失や改ざんの心配がない
- 亡くなった後、あらかじめ指定した方へ遺言書の存在を通知してもらえる
広島県内では、広島法務局および各支局が窓口です。申請はご本人が出向く必要があり、代理人による申請はできません。
公証役場や弁護士は敷居が高い、とお感じの方もいらっしゃいます。その場合、この制度は費用と確実性のバランスが取れた選択肢です。
ただし、法務局が確認するのは形式面のみで、遺言の内容についての相談には応じません。書かれた内容がご希望どおりの結果をもたらすかどうかは保証されない、という点はご理解ください。
Q3 インターネットの雛形をそのまま使ってもよいですか
法務省のサイトなどに様式例が公開されており、財産のすべてを配偶者やお子さまに残すといった単純な内容であれば、雛形を参考に作成することは可能です。
一方、次のいずれかに当てはまる場合、汎用の雛形では対応しきれません。
- 相続人以外の方に財産を残したい
- 財産を残したい相手がご自身と年齢が近い、またはご高齢である
- 自宅などの不動産の売却を予定している
- 相続税がかかる見込みがある
- 相続人の一部と長く連絡が取れていない
- 事業や賃貸物件を所有している
これらは、書きぶりひとつで結論が変わる部分です。雛形の空欄を埋めるだけでは、かえって争いの原因を作ることになりかねません。
Q4 そもそも、誰が相続人になるのですか
配偶者は常に相続人となります。それ以外の方は、次の順位です。
| 順位 | 相続人 | 遺留分 |
|---|---|---|
| 第1順位 | 子(およびその代襲者) | あり |
| 第2順位 | 直系尊属(父母・祖父母) | あり |
| 第3順位 | 兄弟姉妹(およびその代襲者) | なし |
上位の順位の方が一人でもいれば、下位の方は相続人になりません。
ここで最も見落とされやすいのが、お子さまがいらっしゃらない場合です。ご両親のいずれかがご存命であれば、相続人はご両親(第2順位)であって、ご兄弟(第3順位)は相続人になりません。ご兄弟が相続人となるのは、ご両親が既にお亡くなりの場合に限られます。
ご自身が考えている相続人の範囲と、法律上の相続人の範囲がずれていると、遺留分の計算も、相続税の基礎控除の前提も変わってきます。遺言書を書き始める前に、まずここを確認してください。
Q5 相続人以外の人に財産を残せますか。割合に決まりはありますか
残せます。いとこ、甥姪、内縁のパートナー、お世話になった方、法人など、相手に制限はありません(犬、猫、AIはダメです)。誰にどれだけ残すかも原則としてご自由で、相続人であるかどうかによる割合の制限もありません。
なお、相続人以外の方に財産を渡すことを法律上は遺贈といいます。相続人に承継させる場合とは、必要な手続や税負担が異なる場面があります。
Q6 遺留分とは何ですか。誰に認められますか
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障された取り分です。これを侵害する遺言も無効にはなりませんが、亡くなった後、侵害された相続人から金銭の支払を請求される可能性があります(遺留分侵害額請求)。
遺留分が認められるのは、配偶者、子(およびその代襲者)、直系尊属(父母・祖父母)のみです。兄弟姉妹には遺留分がありません。
割合は次のとおりです。
| 相続人の構成 | 遺留分の総額 |
|---|---|
| 直系尊属のみ | 財産の3分の1 |
| 上記以外 | 財産の2分の1 |
たとえば、お子さまがおらずお母さまがご存命の方が、財産のすべてを第三者に残す遺言を書いた場合、お母さまは財産の3分の1について金銭の請求ができることになります。
遺留分を侵害する内容にせざるを得ない事情があるときは、付言事項としてその理由を書き添えておくと、感情面での対立を和らげる効果が期待できます。
兄弟姉妹がいる場合、配偶者の遺留分は3/8にならない?
Q. 配偶者と兄弟姉妹(第3順位)が相続人の場合、配偶者の遺留分は「1/2(総体的遺留分)×3/4(法定相続分)=3/8」にはならないのですか?
A. なりません。配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者の遺留分は2分の1です。
他のケース(配偶者と子、配偶者と両親など)では「総体的遺留分×法定相続分」の計算式がそのまま成り立ちますが、これは兄弟姉妹以外の相続人同士で総体的遺留分を分け合うことを前提とした計算です。
一方、兄弟姉妹には遺留分そのものが認められていません(民法1042条1項)。そのため配偶者と兄弟姉妹が相続人となるケースでは、配偶者が分け合う相手(兄弟姉妹)に遺留分の権利がなく、総体的遺留分(2分の1)の全部を配偶者が単独で取得することになります。
「法定相続分3/4の半分だから8分の3」と考えるのは典型的な誤りで間違いやすいポイントです。
Q7 「預貯金の3分の1を渡す」といった割合の書き方でもよいですか
割合による指定は有効です。亡くなる時点の残高は誰にも分からない以上、割合で定めるのは合理的な方法といえます。
ただし、2点ご注意ください。
第一に、対象範囲を明確にすることです。「預貯金の3分の1」と書いた場合、それが全金融機関の合計を指すのか、特定の口座を指すのかが読み取れず、解釈をめぐる争いになります。
第二に、割合だけを定めると、実際にどの口座を誰が引き継ぐかを、受け取る方々の間で改めて話し合う必要が生じることです。割合の指定は「全体の何分の1」を示すにとどまり、財産の具体的な割り付けまでは決めていないためです。
確実に分けたい場合は、金融機関名・支店名・口座番号まで特定して割り付ける方法が有効です。財産の増減が読めない場合は、割合指定と特定指定を組み合わせる方法もあります。
Q8 財産を残したい相手が、自分より先に亡くなったらどうなりますか
その方に関する部分は、効力を生じません。その方のお子さまなどに自動的に引き継がれるわけではない点に注意が必要です。
効力を失った部分の財産は、遺言がなかったものとして扱われ、法定相続人が取得します。せっかく遺言を書いたのに、最も避けたかった相手に財産が渡る結果にもなり得ます。
これを防ぐには、予備的遺言(補充遺言)を入れておきます。「もし○○が遺言者より先に死亡していたときは、当該財産を△△に相続させる」といった条項です。ご自身と年齢の近い方やご高齢の方を指定される場合には、必ず入れておくべき条項といえます。
Q9 受け取る側が辞退した場合はどうなりますか
財産を受け取る立場の方は、これを辞退することができます。辞退された部分は、Q8と同じく法定相続人が取得します。他に指定された方の取り分が自動的に増えるわけではありません。
なお、相続人が家庭裁判所へ申述して行う相続放棄は、これとは別の手続です。相続放棄には、原則として相続開始を知ってから3か月という期限があります。
Q10 遺言執行者は指定しておくべきですか
指定しておくことを強くお勧めします。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために手続を行う人です。指定がない場合、預貯金の解約や不動産の名義変更には相続人全員の協力が必要となり、一人でも非協力的な方がいれば手続が止まります。
とくに相続人以外の方に財産を残す場合、遺言執行者の指定がないと、金融機関が相続人全員の署名押印を求め、事実上手続が進まなくなることがあります。
また、ご自宅などの不動産を残す場合、そのまま複数人の共有になると、その後の売却で全員の合意が必要となり、新たな紛争の火種になります。遺言執行者に売却して代金を分配する権限を与えておく方法もありますので、不動産がある場合はあわせてご検討ください。
なお、遺言執行者には相続人や受遺者を指定することもできますが、ご高齢の方や、他の受け取り手と利害が対立しやすい方を指定すると、かえって手続が滞ることがあります。
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Q11 相続税の申告は、財産を受け取った人が税務署に届け出ればよいですか
相続税の申告と納付は、財産を取得した方が、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に、亡くなった方の住所地を管轄する税務署に対して行います(相続税法第27条)。
申告が必要となるのは、財産の総額が基礎控除額を超える場合です。基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で計算します。ここでいう法定相続人の数は、Q4の順位に従って決まります。相続人の範囲を誤解していると、控除額の見込みも狂うことになります。
また、配偶者と一親等の血族(子(代襲相続人となった孫も一親等の血族に含める)及び父母)以外の方が財産を取得した場合、相続税額が2割加算されます。兄弟姉妹、甥姪、いとこ、お世話になった方などはいずれも対象です。納税資金を考慮せずに不動産中心の分け方をすると、受け取った方が納税に困る事態も起こり得ます。
なお、具体的な税額の計算や申告手続は税理士の業務となります。当事務所では、相続税が問題となる案件について、提携の税理士とともに検討しております。
遺言書の作成をお考えの方へ
遺言書は、書けば必ず希望どおりになるというものではありません。形式の不備で効力が認められなかった例、相続人の範囲を誤解したまま書かれていた例、財産の書き方が曖昧で結局は話し合いが必要になった例を、私たちは数多く見てきました。
弁護士法人あさかぜ法律事務所では、遺言書の文案作成、法務局の保管制度を利用する際のサポート、公正証書遺言の作成、遺言執行者への就任まで対応しております。
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※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の事案についての法的助言ではありません。実際のご判断にあたっては弁護士にご相談ください。
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